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活動報告・国会質問・質問主意書

年金積立金、「黒字でよかった」で済むのか? ――「減った・増えた」ではなく、本質の議論を。

2019.7.11

国会ブログ

年金積立金、「黒字でよかった」で済むのか?
――「減った・増えた」ではなく、本質の議論を。

2019年7月5日にGPIFが2018年度の運用状況を公表しました。
それによると、全体の運用利回りは1.52%で、累積の運用資産額は約159兆円と年度末として最高となり、マスコミは一斉に「黒字」と報じました。

しかし、後ほど詳細に触れますが、前回の2014年財政検証で示された「実質的な運用利回り」の目標は、言わば「標準的なシナリオ」であるケースEで1.7%、2055年度に国民年金の積立金が枯渇する「最悪のシナリオ」であるケースHで1.0%です。今年度の実績は0.57%(※1)でした。

ここで例を挙げます。
子や孫に財産を残そうと、投資をしている方がいるとします。子や孫に普通の生活をおくらせてあげようと思えば、基本的には毎年17万円、暮らしは苦しいだろうがいくらかでも残してあげるには10万円、投資で儲ける必要があります。結果、年度末時点で5万7000円の儲けでした。

「黒字でよかったね。赤字にならなくてよかったね」。そんなに単純な話でしょうか…。

「全体として儲かった」のは事実です。しかし、目標は下回ってしまった。その分どうするかとなった場合、これまでの儲け(=子や孫のための蓄え)から充てるか、将来の儲けを当てにするしかありません。
このように、単年度であっても厳然たる事実として生じた“年金財政上のマイナス”は、必ずどこかにしわ寄せが行きます。そして、それは子や孫に行くのです。

さて、年金積立金の話になると、「民主党政権下ではどうだったんだ!」という声が必ず聞こえてきます。なので、
① 民主党政権下でも年金財政上必要な運用利回りはきちんと確保していた。
② 年金積立金の運用は短期ではなく、長期で見ることが基本である。
③ 法は、年金財政上必要な運用利回りを「安全かつ確実(GPIF法第20条第2項)に確保すること」を求めており、リスクをとってまで年金積立金を増やすことを求めているわけではない。
――この3点を確認しておきたいと思います。

話を戻しますが、今回公表された数字を改めて見てみましょう。
・「実質的な運用利回り」は0.57%
です。

毎年の年金額は賃金で決まります(※2)。また保険料も賃金で決まります。つまり、賃金が上がれば保険料(収入)が増えますが、同時に年金額(支出)も増えます。すなわち、賃金が増えたことによる保険料増と給付増は基本的に「行って来い」の世界です。
ここがバランスしていればよいのですが、少子高齢化で収入(支える側)が減り、支出(支えられる側)が増える中で、足りない分が出てきます。
その不足分を「年金積立金の運用」で補っているのです。

したがって、年金積立金の運用にあたっては、物価変動の影響を考慮しない賃金上昇分=名目賃金上昇率(※3)を確保することが最低限求められます。今回公表された全体の運用利回りは1.52%。名目賃金上昇率の実績は0.95%なので、一つめのハードルはクリアしています。

その上で、そもそも支え手が減っているわけですから、その分の“プラスアルファ”も確保しなければなりません。二つ目のハードルである、この“プラスアルファ”を「実質的な運用利回り」と言うのです。

改めて確認しましょう。前回の2014年財政検証で示された実質的な運用利回りの目標は以下の通りです。
・ケースE=所得代替率50.6%が維持される、言わば「標準的なシナリオ」:1.7%
・ケースH=2055年度に国民年金の積立金が枯渇する「最悪のシナリオ」:1.0%

「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し ―平成26年財政検証結果―」(厚生労働省 平成26年6月3日) ※PDFデータ。スライド5の「スプレッド」

ところが、冒頭に触れたとおり、今回公表された実質的な運用利回りは0.57%で、「標準的なシナリオ」(1.7%)どころか「最悪のシナリオ」(1.0%)も下回っています。
確かに、民主党政権も、単年度ではその前の麻生政権下で行われた2009年財政検証結果にもとづく実質的な運用利回りの目標を2010年度に下回りましたので、一方的に批判するつもりはありません。
しかし前述のように、2018年度の実質的な運用利回りは、安倍政権下で行われた2014年財政検証における「最悪のシナリオ」をも下回っています。さて、政府やGPIFからそのことの説明はありましたでしょうか?

ちなみに、安倍政権が頼みの綱としている全要素生産性(TFP、※4)上昇率も2018年度実績は0.3%(※5)と、こちらもケースHの0.5%を下回るような状況です。加えて、名目賃金上昇率の実績0.95%もケースHの1.3%を下回っています。
このように、名目賃金上昇率もTFP上昇率も最悪のシナリオにさえおよばない状況なのに、安倍総理は「強い経済をつくれば、年金を増やすことができる」と強弁しています。また一方で、「年金を増やす打ち出の小づちなど存在しない」と野党を批判しています。

年金積立金で株を爆買いし、日銀に国債を爆買いさせて、打ち出の小づちに一番頼っているのは総理ではないですか? 小づちを振り回し過ぎて、使い果たしてしまったのではないですか?

何かがおかしい。これで本当に「100年安心」と言えるのでしょうか。
いま私が提案したいのは次の点です。
・政府もGPIFも、単に「運用利回りがいくらでした、運用資産がいくらになりました」と耳障りのいい数字を並べるのではなく、実質的な運用利回りの重要性を含めて、年金財政の仕組みをきちんと説明すべきではないですか。
・地に足の着いた、現実的な経済前提をもとに財政検証を行い、その結果を速やかに公表しませんか。
・そこでようやく本当に見えてくる問題への対策について、与野党で真剣に議論しませんか。
――何回も申し上げているように、これが私の提案であり、まともに年金問題に向き合わない政府・与党への対案です。「減った・増えた」の議論はお互いにやめて、早く本質の議論に入らなければと思います。

※1 財投債の分を含まない市場運用分のみで0.54%。それに全体の運用利回り1.52%と市場運用分の1.49%の差額の0.03%を単純に足したとしても0.57%。便宜的に0.57%を使用。
※2 厳密には、新規裁定は賃金、既裁定は物価で決まる。
※3 通常は賃金>物価。物価水準が変わったことによる影響を除いて賃金水準が上昇した比率は「実質賃金上昇率」。除く前が「名目賃金上昇率」。
※4 GDPの実績値から資本の伸びと労働の伸びを引いた残差。
※5 2015年2月12日の嵩上げ後で0.3%のため、以前の基準だとマイナスの可能性大。