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「106万円の壁」は存在するのか? 政府は直ちに適切な表現・言葉に見直すべき!←答弁書が出ました

2022.12.21

国会ブログ質問主意書

2022年11月30日に「今後の経済見通しや政府が『106万円の壁』と説明してきたことの正当性及び年金額の変動等に関する質問主意書」を提出し、12月9日に答弁書を受領しました。

質問主意書→https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/210/syuh/s210049.htm

答弁書→https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/210/touh/t210049.htm

 

それによると、驚愕の事実が! 以下、見ていきたいと思います。

 

Ⅰ.全要素生産性(TFP)上昇率について

まず、全要素生産性(TFP)上昇率についてです。GDPは「資本の伸び+労働の伸び+全要素生産性(TFP)上昇率」ですが、全要素生産性(TFP)上昇率の定義は曖昧で、GDPから資本の伸びと労働の伸びを引いた残差に過ぎないと言われています。ただ、政府はそれを大きく当てにしており、一つに、内閣府が年に2回経済財政諮問会議に提出する「中長期の経済財政に関する試算」(内閣府試算)でPB(基礎的財政収支)の黒字化見通しを出すために用いられています。

具体的に、2022年7月29日の内閣府試算における「経済に関するシナリオと想定」の「成長実現ケース」では、日本経済がデフレ状況に入る前に実際に経験した上昇率とペースで足もとの水準(0.5%程度)から1.4%程度まで上昇するとされ、歳出自然体の姿で2025年度に対GDP比で▲0.1%程度の赤字となり、PB黒字化の時期は2026年度となるとされています。一方、「ベースラインケース」では、将来にわたって0.6%程度で推移するとされ、PB赤字対GDP比は2025年度に▲1.1%程度となるとされています。

さて、今回、2006年度から2021年度の各年度の全要素生産性(TFP)上昇率の数値を質問したわけですが、結果は、

 

2006年度(平成18年度)0.6%程度

2007年度(平成19年度)0.4%程度

2008年度(平成20年度)0.3%程度

2009年度(平成21年度)0.5%程度

2010年度(平成22年度)0.8%程度

2011年度(平成23年度)1.0%程度

2012年度(平成24年度)1.1%程度

2013年度(平成25年度)1.1%程度

2014年度(平成26年度)1.0%程度

2015年度(平成27年度)0.8%程度

2016年度(平成28年度)0.6%程度

2017年度(平成29年度)0.4%程度

2018年度(平成30年度)0.3%程度

2019年度(令和元年度) 0.3%程度

2020年度(令和2年度) 0.4%程度

2021年度(令和3年度) 0.5%程度

 

と、第一次安倍政権以降で1.4%程度に到達したことはなく、むしろ民主党政権(下線部)から第二次安倍政権に代わって以降は低迷傾向にあります。これでどうやって1.4%程度まで上昇するのでしょうか?

もう一つ、全要素生産性(TFP)上昇率は、少なくとも5年ごとに行われる公的年金の財政検証でも用いられています。具体的に、財政検証の経済前提については、「足下10年の経済前提」と(それ以降の)「長期の経済前提」の2種類が設定されますが、「足下10年の経済前提」は内閣府試算に準拠して設定するとされています。実際に、2019年財政検証の「足下10年の経済前提」については、2019年7月31日の内閣府試算(「成長実現ケース」は日本経済がデフレ状況に入る前に実際に経験した上昇幅とペースで足もとの水準(0.3%程度)から1.2%程度まで上昇、「ベースラインケース」は将来にわたって0.8%程度で推移)が当てはめられています。

このように、全要素生産性(TFP)上昇率は、PB黒字化見通しと公的年金の制度改正に直結する財政検証で用いられていますが、その数値は足もとの実績値から大きく乖離しています。次回の財政検証は2024年に行われる見込みで、2023年から厚生労働省の審議会で経済前提の議論が開始されることになると思いますが、いい加減、甘い見通しはやめて、現実を直視したうえで対策を検討するべきです。

 

Ⅱ.いわゆる「106万円の壁」について

2022年10月から厚生年金保険の適用事業所の企業規模要件が従業員101人以上に引き下げられましたが、規模以外の適用要件は、厚生労働省の資料では、

・週の所定労働時間が20時間以上30時間未満

・月額賃金が8.8万円以上

・2ヵ月を超える雇用の見込みがある

・学生ではない

とされています。

このうち、「月額賃金が8.8万円以上」については、「これからは、年収106万円(月額8.8万円)を超える等の各種要件を満たした場合に、厚生年金保険(厚年)・健康保険(健保)に加入し保険料負担(厚年・健保)(労使折半)が新たに発生するものの、その分保障も充実します」と記載されている資料もあります。今回、以下の3つのケースが「年収106万円を超える(月額8.8万円以上)」に該当するかを質問し、それぞれ回答が示されました。

 

①雇用契約時の所定内賃金が8.8万円未満であって、翌月以降の所定内賃金が8.8万円以上の場合 →適用になる

②雇用契約時の所定内賃金が8.8万円未満であって、かつ時間外手当や賞与などを含めた年収が106万円を超えた場合 →適用にならない

③複数事業所で働いている労働者について、それぞれの事業所との雇用契約時の所定内賃金が8.8万円未満であったものの、両事業所から受け取った所定内賃金の年間合計が106万円を超えた場合 →適用にならない

 

まず①について、所定内賃金は基本給および諸手当であり、あくまでもそれが8.8万円以上なら適用になるということで、「年収106万円」は関係ありません。そのため、②のとおり、時間外手当や賞与などを含めて「年収106万円」を超えても、所定内賃金が8.8万円未満であれば適用になりません。すなわち、「106万円の壁」という言葉はミスリードであり、事実上は存在しないのです。にもかかわらず、政府自らが「年収106万円」という言い方をしたり、「130万円の壁」と同列に扱うような報道も目立ちます。そもそも月額賃金8.8万円はあくまで勤務先での厚生年金保険の適用に係る収入要件であり、被扶養者の要件である「130万円の壁」とは性格や考え方がまったく異なります。このようなミスリードのせいで、例えば、時間外手当が増えないように就労調整している人、あるいは就労調整させている事業主は現に存在しているのではないでしょうか?制度に対する正しい理解が進むよう、政府は直ちに適切な表現・言葉に見直すべきです。ちなみに、所定内賃金は一事業主で受け取る金額で見るため、③のとおり、複数事業所から合計8.8万円以上の所定内賃金を受け取ったとしても、一事業所が8.8万円未満であれば適用になりません。この点も課題であり、早急な手立てが必要です。

 

<関連ブログ>

今後の経済見通し等に関する質問主意書

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a192062.htm

政府が初めて年金積立金30兆円の損失発生可能性を認めました

https://www.kiyomi.gr.jp/blog/9330/

 

今後の経済見通し等に関する再質問主意書

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a192121.htm

 

民主党政権では〇・九~一・〇パーセント程度だった全要素生産性(TFP)上昇率が平成二十七年度には〇・三パーセント程度まで下落した件に関する質問主意書

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a192230.htm