つじもと清美 公式 参議院議員 立憲民主党(全国比例代表)つじもと清美 公式 参議院議員 立憲民主党(全国比例代表)

活動報告・国会質問・質問主意書

「年金カット法案」への対案

2016.12.8

国会ブログ

公的年金制度については、2004年に大幅な改正が行われました。ざっくりいうと、

保険料収入と国庫負担、そして年金積立金の運用益(場合によっては取り崩し)から成る負担(=収入)を固定(言わば「お財布」を固定)し

その「お財布」の範囲内で給付を賄う

という仕組みとなったのです。
そして、負担を左側、給付を右側とするシーソーがおおむね100年にわたってバランスしていけるかどうか、少なくとも5年おきにチェックするのが財政検証です。財政検証は2014年に2回目が行われました。

さて先日、年金制度改革関連法案が衆議院で可決されました。主な内容としては、
・短時間労働者への被用者保険の適用拡大の促進
・年金額の改定ルールの見直し
・年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の組織等の見直し
となっています。

冒頭でご説明したように、公的年金制度は「お財布」の範囲内で給付を行いますので、現在の受給者の受給額を調整(=減額)すれば、その分、将来の受給者の受給額が増える構造になっています。
→「年金額の改定ルールの見直し」により、物価より賃金が下がった場合に賃金に合わせてスライドを徹底することを民進党が「年金カット法案」と批判していることに対し、安倍政権が「年金確保法案だ」と反論しているのはそのためです。

しかし、1999〜2001年に物価が下がったにもかかわらず、マイナススライドをかけずに結果2.5%分、将来世代にしわ寄せがいくようにしたのは自民党政権でした。これには当時、「ロコツな選挙目当て」という批判がありました。
だれもが引き受けたくない、それを適正な水準に戻すための法案を成立させたのは民主党政権です。安倍政権は今回の法案を「将来世代の年金額の確保のためだ」といいますが、何を今さら、です。
厚生労働省「年金制度の改正について(社会保障・税一体改革関連)」

今国会、法案審議のなかで民進党は「新ルールを適用したらどうなるか、具体的に示せ」と求めました。しかし政府は、きわめて楽観的な見通しでズサンな試算を出してきました。現実とかい離した試算で「将来世代のため」と言っていることが明らかになったのです。
これでは現在も将来も不安な状況のままです。だから、現実的な数字で試算をやり直すように求めてきたのです。以下に具体的な根拠を示します。

政府が示した試算によると、「現役世代の将来の基礎年金の水準は7%程度(基礎年金(1人当たり)5千円)上昇」とされています。
政府試算(10月17日)提出-民進党

しかし、それは厚生労働省が行った2014年(平成26年)財政検証の経済前提「ケースE」をもとに、機械的に計算した結果とされています。
※「平成26年財政検証結果」では「内閣府試算を参考にしつつ、長期的な経済状況を見通す上で重要な全要素生産性(TFP)上昇率を軸とした、幅の広い複数ケース(8ケース)を設定」しています。内閣府試算の「経済再生ケースに接続するもの」とあるA~Eケースと、「参考ケースに接続するもの」とあるF~Hケースの8ケースです。
※全要素生産性(TFP)上昇率について政府は、「資本や労働といった生産要素の投入量だけでは計測することのできない全ての要因による生産増加率への寄与分」という説明をしています。しかしこのTFP上昇率は非常に説明できない指標で、結局は過去のGDPから「労働の伸び」と「資本の伸び」を引き算した、説明できない残差にすぎません。

さて、「将来の基礎年金7%上昇」の根拠となる「ケースE」というのはTFP上昇率1.0%、物価上昇率1.2%、実質賃金上昇率1.3%とされ、それが足下の10年以降、90年間ずっとずっと続くシナリオとなっています(アベノミクスがボチボチ成功する、言わばピンクのバラ色ケース)。
ちなみに、私が10月13日に提出した質問主意書に対して10月21日に示された答弁書だと、足下のTFP上昇率は、2014年度0.4%、2015年度0.3%。これはケースEどころか、いずれ所得代替率が50%を下回るケースFやケースG、さらには2055年度には国民年金の年金積立金が枯渇するケースHをも下回る水準となっています(ちなみに、TFP上昇率0.3%というのはこの20年間で最低で、民主党政権時代の方がはるかに高い水準となっています)。
→辻元清美official website「政府が初めて年金積立金30兆円の損失発生可能性を認めました」(2016.10.23)

このように、「将来の基礎年金7%上昇」といのは、政府にとって都合のいい数字を集めてあてはめた結果に過ぎません。
だからこそ、私はせめて現実に近いケースF・G・H(とはいえこれらのケースもまた、賃金上昇は続くという足下の現実より高シナリオなのですが)で試算した結果も示すように11月7日に提出した再質問主意書で求めました。
しかし、11月15日の答弁書の回答は「お答えするのは困難である」でした。なぜケースEでは計算できて、ケースF・G・Hでは計算できないか、理由は示されませんでした。「困難」? 「面倒」の間違いじゃなくて? 「不可能」じゃないんなら計算するのが仕事じゃないの、と呆れてしまいました。
→辻元清美official website「『今後の経済見通し等に関する再質問主意書』に対する答弁書が閣議決定されました」(2016.11.15)

ところで、2014年財政検証の経済前提には、ケースEよりもさらに真っ赤っ赤なバラ色のケース(アベノミクス超成功ケース)が設定されています。特にケースAはTFP上昇率1.8%という、バブル期なみの水準が延々と続くシナリオとなっています(こんな妄想にもとづいた企画書、一般企業ならボツでしょう)。
そのあり得ないシナリオにも対応するのが運用目標「名目賃金上昇率+1.7%」であり、その達成のために、2014年10月31日にGPIFの基本ポートフォリオ(運用資産の組み合わせ)が大幅に見直されたのです。

そもそも、2004年改正時、当時の自公政権は「100年安心」と謳っていました。あれから100年どころか12年しか経っていないのに――しかも2014年財政検証の結果、「年金制度は持続可能だ」と誇示していたのは、ほかならぬ安倍政権です――なぜそこまでして強引に「年金カット法案」を押し通そうとしているのでしょうか。

実は、足下の経済状況が2014年財政検証の経済前提から大きく外れていること、すなわち、見通しが甘かったこと、もっというとアベノミクスが限界に来ていることを認識しているからではないでしょうか。

「年金カット法案」は2021年度施行予定とされています。2019年には次回財政検証が行われることになりますので、その結果を待って審議しても十分に間に合うはずです。むしろきちんとした経済前提をもとに、きちんとした財政検証を行わなければ、年金制度のどこに課題があり、どういう手立てを行うべきか、問題の本質は見えないはずです。

民進党は民主党時代にまとめた抜本改革案を有しています(https://www.minshin.or.jp/article/110189)。仮にそれをいったん脇においたとしても、「きちんとした経済前提をもとにきちんとした財政検証を行い、その結果にもとづいて審議し直すべき」。これこそが「年金カット法案」への対案です。
このように極めてマトモな提案を国会で実際に投げかけている民進党の仲間がいます。
たまき雄一郎オフィシャルサイト

しかし、報道ではそういうことは一切取り上げられません。政府試算の前提が空想の産物であることに目を向けず、「民進党が『年金カット法案』と称して不安を煽っている」と決め付ける。とってもとっても残念です。ただ、私たちの発信の仕方にも問題があるのでしょう。へこたれず、愚直に訴えていきたいと思います。